水を使い墨を薄めてグラデーションを表現する水墨画は、白と黒だけですが奥深く表現の幅が無限大に広がります。
初心者でも簡単にはじめることができる水墨画は、描く道具を揃えることも楽しみになります。
墨の線だけで描く白描画、岩絵具で色をつけたやまと絵(唐絵、日本画)、水で墨を薄める水墨画と3つのうちのひとつの墨絵です。
5000年以上前に中国で誕生した墨絵
墨絵は、今から5000年以上前に中国で誕生しました。
殷(いん)の古代中国時代に、墨を使って何かを記録していたことが始まりです。
記録から始まった墨絵、長い歴史の中で墨の線だけで描く『白描画』、岩絵具で色をつけた『やまと絵(唐絵、日本画)』、水で墨を薄める『水墨画』と3つに分けられています。
白と黒だけで表現された記録、絵はシンプルですが筆のタッチや墨の濃淡で、無限大に表現方法が広がることが魅力です。
トップ画像は、風景画の分野では国民的画家といわれる(文化勲章受章)東山魁夷の『り[さんずいに離]江暮色』です。
唐招提寺の障壁画が有名ですが、中国を描いた作品では全て水墨画で描かれています。
濃淡のタッチが魅力的な東山魁夷の作品は、岩絵具をつかって色をつけています。
晩年には金箔もつかい様々な絵画の表現をしました。
イタリアのルネサンス期を代表する、芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチ( Leonardo da Vinci)が描いた油絵は、年数でみると600年前。
5000年以上前に誕生した墨絵はとても奥が深いですね。
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写経をするような心を整える感覚で描く水墨画
写経をするように、水墨画もひとつひとつに心を込めて丁寧に描いていくことで、心を整えていきます。
一本の筆でひとつの線を描くことからはじめる水墨画ですが、初めて描く人も墨、硯(すずり)、丸筆さえあれば誰でもはじめることができます。
水墨画は個性がはっきりでることが特徴。
描いているうちにどんどん水墨画の魅力にはまってしまうのも人気の秘密です。
水墨画をはじめるのに必要な7つの道具
・墨(固形墨)
・硯(すずり)
・筆
・筆洗(ひっせん)
・絵皿
・下敷き
・紙(半紙・画仙紙)
水墨画をはじめるのに必要な7つの道具を一つ一つ説明していきます。
墨(固形墨)
墨は固形墨を用意してください。
青墨(せいぼく)と書かれているものがやや青味がかってきれいです。
液体墨にも種類があ理、絵に向くものと向かないものがあります。
成分や濃度など選ぶのも大変で、ゲル化や劣化するものもあります。
固形墨だとすり具合によって濃度を調整でき劣化の心配もありません。
硯(すずり)
書道用の硯で大丈夫です。
筆
はじめのうちは3種類の筆を用意しましょう。
・付立筆(つけたてふで)
基本の筆。太くも細くも描けるのでメインで使う筆になります。
・削用筆(さくようふで)
木の枝など描くときに使います。
・面相筆(めんそうふで)
細い線などを描くのに使います。
筆洗(ひっせん)
プラスチック製の四角いもので、洗う箇所が3個あるものがコンパクトに収納できるのでおすすめです。
筆を洗う箇所、筆をすすぐ箇所、綺麗な水の箇所と分けて使います。
綺麗な水は筆に水を含ませるときに使います。
絵皿
白い陶器のものを2枚。
水墨画では、淡墨(たんぼく)という薄い墨と、農墨(のうぼく)を使うので、それぞれ1枚必要なので2枚必要です。
絵皿の白い面で墨の濃度をみるので、色は白色、85mm〜160mmまであるので描きたい絵の大きさによって絵皿の大きさを決めましょう。
下敷き
和紙などの下に引いて使うフェルト製の下敷き、おすすめは白色です。
墨は濡れているときが一番濃く見え、乾くと少し薄く見えるので、墨色(ぼくしょく)を見るには、下敷きが白い方が後ろの色が透けて見えやすいです。
描きたい紙のひとまわり大きいサイズのものを選びましょう。
紙(半紙・画仙紙)
墨ならではの濃淡やかすれやぼかし、にじみなどといった表現を楽しむのなら、和紙や半紙などを使うと効果的です。
大抵の半紙にはにじみどめという加工がされているので、練習には半紙で大丈夫ですが、水墨画練習帳といった製品名で売られている画仙紙や和紙を選びましょう。
水墨画の二大表現法の鈎勒法と没骨法
水墨画の二大表現法の鈎勒法(こうろくほう)と没骨法(もっこつほう)は、描いているうちに慣れてくるので、少しづつ楽しんで描くことが大切です。
鉤勒法(こうろくほう)
描く対象物を輪郭線でくくり、その内側を彩色していく方法。
没骨法(もっこつほう)
輪郭線を描かないで直接に水墨または彩色で描き表わす技法。
水墨画は墨の濃淡と筆使いで、かすれ、にじみ、濃淡をつけていく技法です。
それぞれを一つ一つ説明していきます。
・かすれ
少しの墨を筆につけて勢いよく動かすとかすれができます。
・にじみ
和紙や半紙などに刷毛などで水を塗り、墨をつけるとゆっくりと広がります。
先に墨を塗り、その周りを囲むようにして水をつけると形がぼかされます。
水の量や付け方によって効果が変わるので、いろいろな方法を試してみましょう。
・濃淡
墨は水の量を変えることで濃淡を表現することができます。
水の量が少ないと濃くなり (濃墨)、半々くらい(中墨)、水多めだと薄く(淡墨)なります。
まずはじめに身近な季節の花や、庭の木を描いてみましょう。
最初は墨の濃淡と筆の使い方の感じを覚え、徐々に鳥や風景などを描きながら質感、量感を素材に合わせて表現していきましょう。
仕事の企画書に活かすデッサン力をつける
クリエイティブな仕事をしている人は、ラフ画を描いて企画書を作りイメージをクライアントに伝えることが多いです。
その時に必要なものがデッサン力。
イメージをわかりやすく黒いペンで絵を描くとスマートに伝わります。
デッサンの基本は楕円なので、りんごや花瓶などから描いていくことが大切になります。
立体表現、透視図法、陰影のトーン、素材感、光沢、構図など、絵を描く上で基本的な知識をしっかり身につけることで仕事に活かすことができます。
デッサン力をつければ、水墨画で濃淡をつけて遠近感などを表現することに役立ちます。
デッサンの基礎を身につけると、イラストなども簡単に描く楽しみも広がるので楽しい趣味の時間にすると気分転換になります。
雲間の空の光が美しい東山魁夷『晩鐘』
水墨画を描いた東山魁夷は、ドイツ留学をしています。
ドイツの古都フライブルクの大聖堂を描いた『晩鐘』(1971年)は、大聖堂を逆光にし、雲間の空の光をとても美しく描かれています。
東山魁夷の絵画は青緑の印象が多いですが、どの作品にもいえることは水墨画の白と黒だけのグラデーション、青のグラデーション、繊細なタッチが素敵なので原画を観ることをおすすめします。
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墨は五彩を表すというように、白黒の濃淡だけでなく色味を感じさせる魅力もあります。
一本の線からはじまる水墨画、はじめてみると奥が深くどんどん楽しむことができます。
自分で描いた絵を額に入れてインテリアのアクセントにすることも楽しみですね。
揃えるものも少ないので時間のある時に描いてはいかがでしょうか。
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