アダムが魂を吹き込まれる感動的な瞬間を描いたミケランジェロの『アダムの創造』は、イタリアのシスティーナ礼拝堂の天井に描いたフレスコ画の一部です。
ミケランジェロは、礼拝堂の天井画を5つの大区画と4つの小区画に分類し、そこに天地創造からノアの物語までの旧約の諸場面を描きました。
『アダムの創造』の作品からは、ミケランジェロの信仰が楽観主義から厭世主義(えんせいしゅぎ)へ変化していることが読みとれます。
ミケランジェロについて
ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni)は、イタリア盛期ルネサンス期の彫刻家、画家、建築家、詩人、社会活動家です。
ミケランジェロは、1475年3月6日に、現在のトスカーナ州アレッツォにあたるフィレンツェ共和国のカプレーゼに生まれました。
ミケランジェロが6歳の時、母フランチェスカが長い闘病生活の末に死去し、当時のミケランジェロ一家は、石工の一家と共にセッティニャーノに住み、父ルドヴィーコはこの地で大理石採石場と小さな農園を経営していました。
1490年から1492年にかけて、ミケランジェロは、メディチ家が創設した人文主義のプラトン・アカデミーに参加し、ベルトルド・ディ・ジョヴァンニのもとで彫刻を学んでいます。
ミケランジェロは西洋美術史のあらゆる分野に、大きな影響を与え、多才さから万能(の)人と呼ばれます。
1546年にミケランジェロは、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂改築の設計とドームのデザインを一任されました。
ドーム全体の基本的なデザインはすでに完成していましたが、ドームの完成前、1564年に88歳でローマで死去しましが、ミケランジェロの遺言により、遺体はローマからフィレンツェへと運ばれサンタ・クローチェ聖堂に埋葬されました。
アダムが魂を吹き込まれる感動の瞬間『アダムの創造』
ミケランジェロの『アダムの創造』には解剖学的な意味が隠されているといわれています。
人物を囲む入念な舞台を描かず、単独で力強いポーズを与えることで絵にインパクトを与えました。
ミケランジェロは、製作後期に足場を取り除いて、床から壁画を見ることで雄大な形態で描きすすめました。
右側に描かれた神は、白い衣服を身にまとう白い髭を生やした老人として描かれ、左側下部に描かれたアダムはほぼ裸身です。
指先からアダムに生命を授けるために右腕は伸ばされ、神の似姿で創られたアダムの左腕も同じように伸ばされています。
アダムの指先と神の指先は、神がアダムに生命を吹き込もうとする瞬間を描いています。
神の周囲に数人の人物(天使)が描かれていますが、誰なのかいう議論は長い間されています。
▼関連記事
アダムの創造の指が触れ合うポーズの意味
アダムの創造で象徴的なのは、神とアダムが手を伸ばし、指先が触れ合うかのように描かれています。
アダムとはイヴと並んで最初の人類の名前で、モーセがシナイ山で、神から授かった石版にも特別な力があったと語り継がれているので、特別な力が働いてアダムに生命が宿ったという解釈になります。
また、旧約聖書には神が触れた物には特別な力が宿ると書かれています。
「天地創造の7日間」の6日目,神は土から自分の姿に似せた人形を作り,その鼻から命を吹き入れてアダムを創造しました。
引用:旧約聖書「創世記」第1章27節より
この時のアダムが無気力な姿勢と表情のは、まだ神が命(魂)を吹き込んでないので、アダムはまだ土の人形ということです。
アダムが裸体をさらけ出して恥ずかしそうにしていないのは、エデンの園で知恵の実を食べるという原罪を犯すことなく無垢であるからです。
また、イヴはアダムから作られた存在なので、この絵の場面ではまだ登場していません。
アダムの創造は神と天使たちと包むマントが人間の脳を表している説
画面右側に描かれた神と天使たちは、赤いマントと共に描かれています。
マントのはためきや、神や天使たちの髪の毛や髭の流れかたをみると、画面左から右に向かい強い風が吹いていることがわかります。
マントの左部分が綺麗な弧になっていますが、一説には神と天使たち、包むマントが人間の脳の断面を表しているともいわれています。
アダムは古代ローマの河神像をお手本とし、システィーナ礼拝堂の全絵画は統一的な図像構造に基づいています。
天井画はモーセの律法以前の世界を表し、1840年代にペプジーノ、ボッティチェッリが描いた側壁の壁画では、キリストとモーセの生涯が対応するように配置されています。
壁画の下を飾るタペストリーは、『教会の創建』『使徒行伝』、祭壇側の壁にはミケランジェロの『最後の審判』が描かれ、画家の信仰が楽観主義から、厭世主義(えんせいしゅぎ)へ変化していることが読み取れます。
システィーナ礼拝堂について
システィーナ礼拝堂、より正確にスィスティーナ礼拝堂(Cappella Sistina)は、ローマ教皇の公邸であるバチカン宮殿にある礼拝堂。サン・ピエトロ大聖堂北隣に位置するその建物とともに、ミケランジェロ、ボッティチェッリ、ペルジーノ、ピントゥリッキオら、盛期ルネサンスを代表する芸術家たちが内装に描いた数々の装飾絵画作品で世界的に有名な礼拝堂である。
引用:システィーナ礼拝堂 Wikipediaより
システィーナ礼拝堂への入場はヴァチカン美術館のチケットが必要です。
世界中から観光客が集まるのでシーズンや時間帯によって、入場チケットを買うだけで数時間かかることもあるので、入場予約+チケットのセットが便利です。
バチカン美術館はバチカン宮殿内にある24の美術館の総称で、見学できる部屋数は1400、通路は全長7kmと数々の礼拝堂とギャラリーを併せています。
【ヴァチカン美術館 入場料】
■月曜〜土曜
9:00~18:00(最終入場は16:00)
■毎月の最終日曜
9:00~14:00(最終入場は12:30)
■夜間見学
19:00~23:00(最終入場は21:30)
※ 4/26~10/25の毎週金曜は通常の入場時間に加えて上記の時間帯で夜間見学が可能となります。
■開館延長
9:00~19:00(最終入場は17:00)
※ 4/18~5/4(4/21、4/22、4/26、4/28、5/1、5/3は除く)、11/2の期間に限り開館が上記に延長となります。
■一般大人 17ユーロ
■6〜18歳 8ユーロ
■学生 8ユーロ
※肌の露出の高い服装では入場できません。
全館でカメラ、スマートフォン、タブレットから写真撮影可能(フラッシュと三脚の使用は禁止)です。
システィーナ礼拝堂礼拝堂内はカメラ撮影不可です。
zip : Viale Vaticano snc, 00165 Roma – Italy
tel : +39 06 69884676
ジュゼッペ・モーモの設計の螺旋階段
Uscita(Exit)の案内沿って行くと、最後にジュゼッペ・モーモの設計によって造られた螺旋階段があります。
2重のらせん階段は、上りと下りが1つの階段のように見える設計になっています。
それぞれが上りと下りの専用になっているので、行き交う人がぶつかることはありません。
また、階段の上には大きな天窓が設けられています。
ジュゼッペ・モーモは、政庁舎や鉄道駅などの近代ヴァチカンにおける主要施設の設計を手がけています。
アダムが魂を吹き込まれる感動的な瞬間を描いたミケランジェロの『アダムの創造』をご紹介しました。
とても見どころのある絵画、美術館なのでぜひ見ておきたいですね。
▼関連記事