
イタリア・フィレンツェのドゥオモで有名な映画は『冷静と情熱のあいだ』です。
1999年に出版された辻仁成と江國香織による10年の歳月を書いた恋愛小説。
同じ時系列に起こる出来事を江國香織があおいの目線で書いた『冷静と情熱のあいだ Rosso(ロッソ)』、辻仁成が阿形順正(あがたじゅんせい)の目線で書いた『冷静と情熱のあいだ Blu(ブリュ)』と別々の単行本としてセット発売され当時50万部を超えるベストセラーになりました。
学生時代にあおいが言った
“わたしの30歳の誕生日に、フィレンツェのドゥオーモのクーポラで会ってね。約束してね。”
という言葉がいつも心に残っていた純正と、別れたあおいの10年という年月。
すれ違い10年後の約束の物語です。
男性が女性に感じる気持ちと女性が男性に感じる気持ちの二つの視点から書かれた本からは、お互いがどのくらい相手のことを思い出して苦しんでいるか、耐えているかが読み取れます。
それぞれの小説にシンクロするシーンがあるとさらに次のページへすすんで読みたくなる小説です。
小説を原作した映画は2001年に日本映画『冷静と情熱のあいだ』になり第20回ゴールデングロス賞の優秀銀賞を獲得しました。
映画では新たに脚本が起こされているので時間の流れや各シーンは原作の小説とは異なるところがありますが、別々の視点から書いた本が一緒になった映画はまた違う魅力があります。
映画ではフィレンツェやミラノの町や生活がたっぷり堪能できます。
絵画の修復士を志していた阿形順正(あがたじゅんせい)から、修復や油彩画について絵画についても知ることができる映画です。
今回は映画に出てくるZecchiや三角コーナーと一緒に映画の散策をご紹介します。
目 次
物語の軸『サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂』

この映画で主役となっているのが学生時代にあおいが言った
“わたしの30歳の誕生日に、フィレンツェのドゥオーモのクーポラで会ってね。約束してね。”
ドゥオーモが物語の軸になっています。
街全体が世界遺産に保存されたフィレンツェのドゥオーモはサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂といい世界中から多くの観光客が集まります。
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂については463段の階段をのぼる!花のマリアフィレンツェのドゥオーモをご覧ください。
順正の通う画材屋『Zecchi』

フィレンツェは多くの美術品がありアートに囲まれています。
たくさん美術に関わる人たちが住んでいる街で画材屋もなくてはならないものです。
映画で油絵の修復をしていた順正が画材の買い付けに通っていたのがZecchi(ゼッキ)。
今も朝から学生や修復師の人たちが並んで買い物をしています。
いろいろな画材や文房具が揃っていて見ているだけでも楽しめます。
“「石膏入れました?」
「全部入ってるよ」”
とお店の人とやりとりをして自転車に乗って立ち去るワンシーン。
フィレンツェは美術学生や修復士がたくさん集まっています。
絵画|五感を表したようなジョルジョーネのテンペスタが貯蔵されているアカデミア美術館には美術学生のためにたくさんの石膏像が展示されています。
絵画|魂を吹き込まれる瞬間を描いたミケランジェロのアダムの創造が貯蔵されているシスティーナ礼拝堂や絵画|建築物も魅力!有名絵画が集まるウフィツィ美術館と観ておきたい作品がたくさんあります。
観たい絵画や美術館を事前に決めてチケットを購入しておくとスムーズに楽しめます。
交差する想い『La Bottega Del Chianti』

順正は働いている工房へ最初は自転車で通勤していました。
自転車の動きが悪いのか足で自転車を蹴るシーンやチェーンをなおすシーンがあります。
数年後に自転車からバイクになりました。
その自転車を蹴ってはしるワンシーンの場所はLa Bottega Del Chiantiの角です。
自転車のチェーンをなおしていた順正は教会から出てくる結婚式の出席者を眺めます。
結婚式に参列して視線を外した先にあおいは順正を発見しました。
大切な人は遠くにいても気づきます。
順正はチェーンがうまく動き出し自転車を走らせます。
再度ふり返ったあおいは順正を目で追います。
数年後。
順正はフィレンツェから逃げ帰った日本でジョバンニがなくなったことを電話で聞き葬儀のためアイリスの花を持ちうつむきながら歩きます。
同時にあおいは教会の結婚式で親友のお祝いをしていました。
La Bottega Del Chiantiはチーズ、ワイン、塩漬け肉や、食器、装飾品、宝石、花瓶、装飾品、小物など日用品が売られています。
地元の小さな雑貨屋さんなのでのぞいてみると掘り出し物や、現地の人が好んで食べているものを買うことができます。
順正の家の近くのコーナー

“ぼくには、ぼくには、忘れられない人がいた、あおいという、一人の女性を、
ぼくは、いつまでも、忘れることが、できずにいた”
『冷静と情熱のあいだ』のファンはこの路地は忘れられないシーンです。
自転車で走るシーン、バイクで走るシーンと時系列に登場します。
順正のナレーターがはいった名場面はどうしようもなく苦しく、切なく、涙を流したと思います。
男性も女性も心のどこかに忘れられない人を大切に想う気持ちは同じです。
人には話したくない本当の気持ちを素直に持ち続ける。
自分の心にうそをつかないことはとても大切です。
願いはいつか叶うという努力と忍耐、孤独をかみしめて未来を模索することは純粋な心だと思います。
順正の通勤路『サンタ・トリニタ橋』

順正の通勤路で自転車とバイクで走るサンタ・トリニタ橋です。
世界で最も古い楕円アーチ橋で、3基の平坦な楕円アーチがあり 長さ29m (95フィート) 、中央スパンは長さ32m (105フィート) と格調高い橋です。
近くにヴェッキオ橋があります。
何度となく流された橋は1567年コジモ1世の命で建築家バルトロメオ・アンマンナーティにより設計されました。
バロック様式の新しいアーチ型のデザインは画期的でした。
橋の四隅に四季を表す4体の像が設置されています。
再会の場面『サンティッシマアンヌンツィアータ広場』

言葉にできなかった順生とあおいが、10年前に約束したドゥオーモの展望台から再会した後のシーンに出てくるのがサンティッシマアンヌンツィアータ広場です。
ドゥオーモから北側へと5分ほど歩いたところにあります。
フィレンツェで最も美しい広場と呼ばれています。
広場の中央にジャンボローニャによるフェルディナンド1世の騎馬像、ピエトロ・タッカによるカチュッコの噴水、捨て子養育院のファサードのアンドレア・デッラ・ロッビアによる幼子のメダリオンがあります。
周囲を囲む建物が美しく休憩にぴったりの場所です。
“「困ってってる」
「戸惑ってるんだよ、わかる? 戸惑う」
「同じ、私も一緒だから」”
あおいの誕生日にフィレンツェのドゥオーモに一緒にのぼる約束をしたこと。
時間の約束もしてないけれど再会した2人。
お互いがこの日のために離れていても心の支えでもあり目標にしていました。
“「友達のところに来たついでに…」”
と口にしたあおい、
“「ぼくはずっと覚えていた」”
とはっきり言葉にした順正。
このシーンでふたりの長い空白の時間が一気に埋まりました。
バイクで向かったサンタ・マリア・ノヴェッラ駅
フィレンツェのドゥオーモに一緒にのぼる約束した時に、一緒に描いたひまわりの絵を順正の部屋で見つけたあおい。
あおいはアメリカに帰るために順正の部屋をでます。
“「会わなければよかった」
「私はよかった、順正に会えてよかった」”
あおいが部屋を出て行って呆然とする順正。
昨日再会したあおいに
“「通りがかりに見かけたの」”
といわれてついて行った音楽祭。
学生時代に順正とあおいが大学の講堂前でチェロを練習していた学生をいつも楽しみにしていた記憶。
いつも同じ箇所で幾度も間違えていた学生がジュゼッペ・ポッジ広場で演奏をしていました。
その音楽祭チラシを見つけます。
そうミラノのリベルティ広場で、あおいが昔練習していた曲をリクエストしていたんです。
奇跡はたまに起こるから奇跡ではなく人の思いや、努力、揺るぎない心の積み重ねで奇跡はおこります。
世界観が広がるミラノ中央駅

イタリアで2番目の乗降客数をほこるミラノ中央駅は出会いと別れの駅でもあります。
建築家ウリッセ・スタッキーニが設計しました。
プラットフォームはアルベルト・ファーヴァにより、全長341m、66,000平方メートルの鉄とガラスのトレイン・シェッドで覆われています。
建築様式はリバティ様式やアールデコの混合様式です。
建築家フランク・ロイド・ライトにより”世界でもっとも美しい鉄道駅”と称されました。
恋人マーブとアメリカに住んでいると言っていたあおいは、実はずっとひとりでミラノで暮らしジュエリー店で働いていたのです。
“会わなければよかった”
と言った順正。
音楽祭の曲があおいのリクエストと聞いてからあおいは友達に会いに来たついでではなく、自分との約束のためだけにフィレンツェに来たことを確信しました。
未来はつながっている、現在から未来へ、順正はあおいを追いかけました。
過去に囚われ過ぎず、未来に夢を見すぎない。現在は点ではなく、永遠に続いているものだ、と悟った。ぼくは、過去を蘇らせるのではなく、未来に期待するだけではなく、現在を響かせなければならないのだ。
引用:『冷静と情熱のあいだ blu』辻仁成
順正とあおいの誠実な心

長い年月を経て言葉にできなかったたくさんの想い、自分の父親があおいにした過去を親友の崇(たかし)から偶然聞いた順正。
“遠いミラノにいるあおいへ”
手紙を書きました。
たくさんのありがとうとたくさんのごめんなさいを。
あおいは何度も手紙を読み返しました。
順正と初めてすれ違ったレコード店の10円からを思い出し、想いが込みあがり悩みながらも公衆電話から順正の梅ヶ丘の自宅へ電話をしたら、
“あおい?”
何も話さずに無言でいたあおいは順正から自分の名前を聞きます。
何も疑うことなくあおいの名前を口にした順正の真っ直ぐさ、これはもう涙しかありません。
あおいが泣き崩れるタイミングでスコールが降りだします。

あおいと別れてから順正は芽実(めみ)と付き合いましたが、芽実にはっきり気持ちを伝えました。
“おれが今でも、心の中で今でも好きなのはあおいだから”
順正と別れてからあおいはマーブと付き合いましたが、マーブにはっきり気持ちを伝えました。
“約束があるの 順正は私のすべてなの”
映画を観た人も原作の本を読んだ人も、作品に触れてイタリアの魅力に引き込まれた人が多いと思います。
深く愛し合いお互いを分かりあえていたはずの長いふたりのすれ違い。
冷静と情熱のラブストーリーはとても素敵です。
そしてフィレンツェのスケールを壮大に広げたオーケストラの演奏の音楽がドラマティックです。

テンペラ画を祖父からすすめられた順正
“修復の仕事っていうのは、なくなった人の魂を唯一蘇らせることができる職業なんだ”
順正が持つ深い心、真っ直ぐな心
人は守りたいものを見つけたとき 強くなる
順正が笑顔であおいに手招きをして、その笑顔を見つけて微笑んだあおい
その先、あなたはどう感じたでしょうか。